ダイヤモンド・ラッシュ 目次
ダイアモンドの呪縛
見どころ
あらすじ
虚栄の輝きの裏に
成功を誇示する女性たち
女性蔑視の階級社会
ソ連との取引き交渉
世界市場支配の仕組み
ソ連の屈服
ホッブズ氏の暗示
階級(差別)社会の盲点
巨大コンツェルンの権力
復讐のための計画
最新監視装置の導入
驚愕の事件
ダイア独占と保険市場
犯人からの驚異の挑戦
謎解きと駆け引き
シンクレアとミルトン
権力を揮うミルトン
ミルトンの死
シンクレアの自殺
ローラの奮闘
ホッブズ氏の復讐計画
ダイアモンド強奪の手口
してやられた経営陣
その後……
■この映像物語の印象■
映画『フローレス』の歴史的背景
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コンドル

ダイアモンドの呪縛

  この物語は、世界のダイアモンド市場を独占支配するコンツェルン(大財閥)とそれを取り巻く金融界に対する2人の復讐劇である。その1人は、過去に貪欲な保険業者の詐術によって最愛の妻を失った老人。もう1人は、ダイアモンド商社の業務に献身したにもかかわらず、商社に裏切られた女性管理職。
  この物語では、実に奇妙なダイアモンドの大量盗難事件をめぐって完全犯罪の謎解きとダイアモンド世界市場の醜悪さが描かれている。
  ダイアモンド世界市場の醜悪さとは、ダイアモンドという特異な鉱物の取引きをめぐって世界的規模で張りめぐらされている有力大企業や国家による独占ないし寡占の仕組み、そしてこの独占・寡占状態を強固に維持するための手口のありようだ。

原題について

  『ダイヤモンド・ラッシュ』という邦題で公開された映画の原題は Flawless (2007年作品)。フローレスとはフローがない状態のことで、フローとは傷やひび、傷みなどを意味する。つまり「疵のない/完全無欠/完璧な」状態を意味する。
  物語の中心テーマとなるダイアモンドについて言うと、たとえば「フローレス・ダイアモンド(疵がまったくないダイアモンド)」という言い方がある。
  ここでは、ダイアモンド取引きを専門とする商社のブランド名称だ。
  物語の舞台は、世界で最も上質なフローレス・ダイアモンドの製造加工・販売市場を排他的に支配しているロンドンの巨大商社――世界企業だ。だから、フローレス・ダイアモンドとは、この物語では完全無疵のダイアモンド一般を示すとともに、このブランド名でロンディという企業グループが扱う独占商品であるダイアモンド(品質)のを意味しているようだ。ダイアモンドの採掘と選別、加工は国際的に組織され、流通販売ネットワークは世界市場規模で組織されている。

  ところが映画物語を結末まで観てみると、フローレスという題名は、この大商社を相手にした2人の復讐劇――ダイアモンド窃盗――が「完全無欠の」犯罪だったという物語のテーマを表しているのではないかと理解できる。というわけで、フローレスという語は物語に包含されたさまざまなことに関連している。

  それにしても、邦題の「ダイヤモンド・ラッシュ」とはどういう意味なのだろうか。 rush は「殺到」とか「突進」「襲撃」という意味合いと、「陶酔状態」「恍惚状態」という意味合いがあるが、「さまざまな輩が欲に目が眩んで殺到する」ことを意味するのか、それともこれまた「欲呆け状態でダイアモンドに陶然となってこと」を意味するのか。
  意味が取りにくい和製英語で、邦題としては「失敗作」というべきだろう。

見どころ
  この物語は、1960年という時代のダイアモンド商社が舞台となっている。冷戦体制まっただ中の時期だ。
  当時、世界市場に供給されるダイアモンドの圧倒的な部分は、2つの巨大産出地、南アフリカ共和国とソヴィエト連邦の鉱山から掘り出されたものだった。ともに過酷な抑圧レジームにあった。
  とりわけ南アフリカでは、残酷な「アパルトヘイト」と呼ばれる人種差別・人種抑圧が厳然と打ち立てられ、黒人民衆と鉱山労働者を恐ろしいほどの低賃金と過酷な労働条件によって支配・抑圧・収奪していた。表向き「社会主義」を標榜するソ連は、裏に回ってこの醜悪な資本家的な搾取のシステムを支えていた。
  ヨーロッパのダイアモンド市場に流通する美しい宝石の輝きの裏には、人種隔離と差別によって抑圧され呻吟するアフリカ民衆の血と怨嗟がこもっていたのだ。
  ダイアモンドの外形加工方法はいくつもあるが、最も標準の58面体加工を「ラウンド・ブリリアント・カット」――あらゆる方向に燦然と輝く光沢を放つ形――と呼ぶ。一般にはブリリアント・カットと呼ばれているようだ。

  さて、シティ・オヴ・ロンドンにある高名な財閥グループの商社ロンドン・ダイアモンド・コーポレイションは、ブリテン政府や英連邦――ブリティッシュ・コモンウェルス――に属す南アフリカ政府と結託して、南アフリカのアパルトヘイト秩序を支えながら、高品質のダイアモンド原石を安価に手に入れていた。
  この会社が率いる世界的な企業コンツェルンが、――表向きは100以上の競争し合う企業としての外観をまといながら――世界市場を独占支配していた。その子会社が外観上、競争し合う多数の企業に分かれているのは、各国の独占禁止法による規制を逃れるためだった。
  他方で「社会主義」=「労働者の権力」という幻想をまとったソ連国家は、国連会議などイデオロギー宣伝の場では、南アフリカの人種隔離という形態での搾取と抑圧を非難し、これに加担するダイアモンド商社を批判するが、裏ではしっかりと手を握っている。結託・共謀というよりも、ソ連は商業的・金融的にダイアモンド・コンツェルンに屈従してるのだ。この構図も見事に描かれている。

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